所在ない一日

小山清の短編を読んでゐる。「僕の一日なんておよそ所在ないものである」と語る『落穂拾い』は「とるに足らない」日常を綴つた淡い小品である。ひとつひとつの文章に無駄が無く、朗読したくなるほど美しい。なんでもない日常を受け入れる気分を忘れるなと説いてくれるやうである。求めてばかりゐると疲れるのでちゃうど良い。

■古本屋をひとりできりもりする少女が出てくる。緑陰書房といふ。その店名から連想される雰囲気はとても良い。勝手な想像であるが、電球ひとつで小ざつぱりとした店内、古びた木製の本棚が壁沿いと中央に背を合はせて置ひてあるだらうなどと思ひを巡らせると楽しい。
■時々「僕」はその店で均一本を漁りに行くやうになり、そのうちに少女と言葉を交わすやうになる。

■最後、「僕」の誕生日に少女がプレゼントを渡す。その贈り物がたまらない。