眠りへの歓びの助走

■なんだか最近購書日記みたいになってしまっているが、今日も掘り出し物を見つけてしまったので書く。

西荻にて、バイトの休憩中いつもは通らない道にふらりと入るとS堂書房の看板が目に留まる。何度か覗いたことはあるのだが、大抵何も買わぬことになるので、何かの折に店の前を通ることがあっても熱心に眺めずに素通りしていた。しかし今日はなんとなく外の文庫の棚を目を凝らして見てみる。するとあったあった、講談社文芸文庫木山捷平が150円(!)で。しかも2冊。『井伏鱒二/弥次郎兵衛/ななかまど』、『角帯兵児帯/わが半世記』。他に、昔の講談社文庫の永井龍男コチャバンバ行き』、五木寛之/野坂昭如『対論』が70円、80円。何なんだこの安さは。店内は時間がなくてあまり物色することができなかった。また時間のあるときに来よう。昔の講談社文庫はなんとなく上質な紙を使っているような気がする。紙の白さが際立っているし、厚いし、年月が経っても傷んでいないものが多い。なんだか妙にそそられるものがある。
■帰り道、国立ブックで思潮社の『シュルレアリスムの資料』。


■昨夜、最近風呂場でちょこちょこ読み進めていた大岡昇平『成城だより』を読了してしまった。「してしまった」と書いたのは、この本、講談社文芸文庫の上下巻のほうではなくて、文藝春秋刊の全三巻のほうで、僕はⅢは手元にあるのだがⅡを持っていないので風呂のお供をどうしようか。と、まあそんな具合だ。でもまあ、気にせずにⅢを読むかな。Ⅱはそのうちどこかで出会うだろう。忘れた頃かもしれない。楽しみである。そうだ、同じく日記本の武田百合子富士日記』はいまだ最後まで読んだことがない。今寝る前に布団の中で本当に少しずつ読み進めてはいるが、読み終わらないことを祈っている。大岡昇平武田百合子の夫・泰淳と親交があったので『富士日記』に登場する(余談だが、深沢七郎も出てきていちいちおもしろいことを言う。深沢さんの『妖木犬山椒』と『富士日記』を絡めて語った種村季弘の秀逸な文章がある)。そして、泰淳没後の百合子さんが『成城だより』に登場する。そこには付箋を貼った。

 武田百合子さんのマンション、近所なれば、帰りに埴谷と寄る。正面に武田泰淳の仏壇作りあり。百合子さん、最近、車を運転していると、隣の空席に泰淳いるような気がし、いないのに気がつくと涙が出て来て、泣きながら運転す、との泣かし随筆をものせることにつきからかう。
 百合子さんはすでに週末は富士北麓の山小屋に行きあり。こっちは隣組だが、老衰して梅雨が明けないと行けず。しかしこんどはこっちが「日記」を書いているから「富士日記」の仇取ってやるぞ、といえば、あぶないから近寄らない、という。武田山荘の上り下りきつく、去年は降りて行かれなかったが、今年は降り切って覗き見してやるぞとおどす。

風呂に入っているときに読む本と眠る前の布団の中で読む本をそれぞれ何となく選んだ。強いて言えば日記だということで選んだのだが、それぞれにそれぞれの作者が登場することになるとは、我ながら良いセレクトだったなと思う。眠りへの歓びの助走。
他に付箋はこんなところにも貼った。

最近イエロー・マジック・オーケストラなるグループ、東京を席巻しつつあり、〜(中略)〜十二台のシンセサイザーを連結してコンピューターにて操作し、へんな音を出す。ニューミュージックなんてもはや古い、とのことなれば買ってくるとなかなかいける。ポップの如き音の豊かさなけれども、透明を目指して、ふしぎなリズムと旋律あり、寄席芸的機知あり。

71歳にして好奇心衰えず豊かな感性の持ち主である。すばらしい。