ジッポ

■昨日はXからSOS信号が届いたため慌てふためき駆け付けてタクシーで送ってそのまま泊まったのだった。

■今夜の雨は強くしつこい。靴が濡れてしまわぬように恐る恐る歩き出す。
ママさんに一人会いに行く。ビールを二杯と冷奴、麺が短めでしっとりとした馴染みの無い焼きそばをいただく。もりもり食べてぼそぼそ話した。店にいたイギリス人がオドオドしていてからかいたくなって目線を投げかけると、にこやかな顔で英版機関車トーマスの絵本を差し出された。彼にはこんな質問も投げかけられた。
「日本でスポーツの名称はテニスもサッカーもゴルフも英語なのに、なんで野球はベースボールじゃないんだ?」
故郷ロンドンの実家で行われたパーティーの映像も携帯で見せられた。人懐っこい人だ。


■エンタクシー面白い。福田和也さんの洲之内徹についての原稿は見事だった。引用がうまい。すなわち構成がうまい。とにかく、積読してある『気まぐれ美術館』を読まなければと思う。

■前号から始まった草森紳一氏の『ベーコンの永代橋』は三つの血について書いてあった。かの阿部定が恋人のオチンコを切り落として、「定吉二人きり」と書くときに用いた朱色の墨である血。永井荷風の死因である胃潰瘍の血。そして最後に告白される原稿執筆中に草森氏自身から突然溢れ出し「掛けぶとんも、毛布もシーツもぐしょぐしょに」染めた血である。

■ジッポを失くしてしまった。これからいくつ失くすだろう。