眼差し

■昼間遅く起きて家でレンタルビデオを観る。外は強い風。洗濯物が飛ばされるのを恐れて部屋の中に干す。珈琲をたっぷり淹れる。お湯を注ぎふっくらと膨らむ挽いた豆を見ているとゆったりと暖かな気持ちになる。休日でこれから映画を観るという状況で珈琲を淹れる。至福の時、と言ってもいい。


■映画はテオ・アンゲロプロスの『ユリシーズの瞳』。最新作の『エレニの旅』で初めてアンゲロプロスの映画に触れ感激して、過去の作品を観ようと思っている。『エレニの旅』同様長回しのシーンが多く美しい。「歴史上最初の映画だと思われる失われたフィルムを探す旅」と聴いて興奮しない人はいるだろうか。映画は動く写真であるという当たり前の事実を今更ながら真摯に受け止めることになった。いまや、当たり前のように動く映像を僕らは観ているが、単に「動く」ということだけで感動した人が時代があったのだ。僕は僕の眼差しでこれから何を捉えよう。

■映画に通底して関わっているバルカン半島の歴史を勉強したいなと思う。


■時折挟まれるダンスと音楽がとても良い。そこだけストーリーから浮く夢のような感じなのだ。映画的だなあとしみじみ嬉しくなる瞬間が詰まっていた。僕はそういうのが好きだ。「浮く」感じ。それは場の空気と異なるという意味での「浮く」というのとも違うし、「浮遊感」という言葉とも少し違うように思う。巧く説明できないがその「浮く」感じを僕はこの眼差しで捉えていきたい(生きたい)のだ。


■字幕は池澤夏樹