金沢へ

■昨日今日と金沢に行っていた。母方の祖父の三回忌で、祖母、叔父、叔母、従兄弟、父、母との一泊二日の旅。羽田まで車で行き、飛行機で小松空港。レンタカーで金沢へ。


■旅のお供本は武田百合子富士日記・上巻』(中公文庫)。今までしっかり順番に読んだことはなく、ぱらぱらと気まぐれに開いて読んでいたのだが、最初から精読しようと思った。泰淳さんのわがままに対する百合子さんの「憎たらしい」という反応が可笑しい。読み進めるのが惜しいくらいに面白い本だということを再確認。旅にはとても馴染んだ。


■旅の間よく食べた。おかげで口内炎ができた。めったに食べられないものも口にすることができて嬉しい。ホテル内にある食事処というのはあまりいい印象はないけれども、昨夜行ったホテルの懐石料理屋はとても美味しく、熱燗片手に皆機嫌よく突っ込んだ話をした。


■死んだ祖父は生前、別れ際には必ず握手をした。墓の前で手を合わせているうちにその手の感触がふと蘇って僕の意識から離れない。それはとてもほっとする感触だ。



■金沢でも古本屋に行き、四冊購入。東京とはやはり事情が違うのか、木山捷平などが安く手に入る。やはり木山は中央線の作家ということで東京では高いのか。後藤明生『疑問符で終わる話』が百円均一に混じっているのには驚いた。迷わず手に取る。他、蓮實重彦『「私小説」を読む』、西脇順三郎『野原をゆく』、木山捷平『白兎/苦いお茶/無門庵』を購入。後の二冊は講談社文芸文庫で三百円だった。荷物が重くなるが嬉しい重み。


■今朝の朝食のバイキングで張り切ってたくさん食べてしまい(いつもそう)、昼に行った新鮮な日本海の魚を使った鮨屋で思う存分食べられなかったことが悔やまれる。


■円形の造りが美しい金沢21世紀美術館の周りの緑地帯をぶらぶらしていると、カメラ小僧ならぬカメラおじさんが大勢群がっていて何事かと覗いたら、そのレンズの先には不自然な笑みを湛えた和服のおねえさん。ひょんなところで撮影会に出くわす。妙な光景で苦笑。



■旅を終えて、いまだ祖父の手の感触が身に沁みて感じられて、それだけで行って良かったと思う。祖母が墓を離れる時に小さく聞こえた「おじいちゃん、行くからね」という声が何かただならぬ響きをたたえていて、聴いてはいけなかったような気になったことを思い出す。