のらぼう礼賛

■クリスマスも終わり師走も終盤。もう今年は一週間もない。


■さて、日記が空いてしまった。僕はなにをしていたろうか。

■世間がクリスマスイヴで盛り上がっていた頃僕はバイトをしていた。なんとなく街行くカップルが浮き足立っているように見え、逆に1人で歩いている女の子は沈んでいるように見える。タモリのクリスマス嫌いは有名で、今年も「仏教徒ですからっ!」という言葉が発せられた。

■クリスマスイブのその日はクリスマスとは別に祝うことがある。Xの誕生日。バイトが終って日付が変わり25日になってしまってからだったが祝杯をあげる。
「ハッピーバースデイ」
「メリークリスマス」
チキンやほうれん草のキッシュやアップルパイを食べながらめずらしく麦酒を一口も飲まずワインのみの夜を過ごし、録画しておいた毎年恒例タモリがゲストの徹子の部屋を食い入るように観る。密室芸に夢中になってサングラスが取れそうになるタモリを見るとドキドキする。


■次の日、25日。日曜日ですから競馬へ。立川ウィンズは物凄い人。有馬記念は普段馬券を買わない人もお祭り騒ぎの要領で買いに来る。レースが始まると大画面の前は身動きができないほど人で一杯になり、一番人気のディープインパクトが画面に映るたびに「オイ!オーイ!」だとか「オー」だとか皆タイミングを合わせたようにどよめく様子がおもしろい。楽しいから一緒にどよめく。それまで全戦全勝だったディープインパクトが2着にとどまり一瞬会場がポカンとなっているなか僕もやはり一緒にポカン。


■その後吉祥寺へ。井の頭公園のなかのカフェでラテを飲み体を温め公園をぐるり。ブックに行ってみたらちょうど単行本500円セールをやっていたがもうその時は夕方だったので良いものはさらわれているだろうとあまり期待せずに入る。しかしながら良いものがみつかる。田中小実昌『カント節』と荒木陽子『愛情生活』。前者は初めて見たような気がする。


■夕飯はすでに決めていた。予約しておいた西荻窪の隠れた(?・住宅街にある)名店「のらぼう」へ。まず、店の方々の柔らかい口調と物腰が実に心地良く久しぶりに訪れたのだがすぐに店の空気に馴染むことになる。そして、料理。基本的に和食が中心でその素材の選び方もさることながら、とにかく塩加減が絶妙でため息が出るほどだ。塩梅が良いとはこのことだろう。また麦酒が美味しい。サッポロのエーデルピルスというあまりお目にかかれない麦酒。フルーティーな香りとしっかりとした苦味が麦酒を飲む歓びを感じさせてくれる。そしてその温度も冷たすぎず温すぎず絶妙だ。丁寧な仕事してますねえと甘美な想いを抱くこときりがない。いつもここにくると気分良くなってたくさん食べてたくさん飲むことになる。土鍋で炊いてそのまま出てくる牡蠣と牛蒡の炊き込みご飯・・・とこうして書いていると思い出して涎が出てきて困る。ドライトマト入りの出汁巻き卵も絶品だったなあ。僕にとって寸分の狂いもない大切なお店。それが「のらぼう」。日本酒もいただき、すっかり良い気分で店を出る。角を曲がるまでずっと外に出て見送ってくれた。